ダウンロード違法化の対象範囲拡大に対する反対声明


ダウンロード違法化の対象範囲拡大に対する反対声明

ダウンロード違法化の対象範囲を安易に著作物全体へと拡大することに反対します。

文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の「中間まとめ」において、「著作物の種類・分野による限定を行うことなく広くダウンロード違法化の対象範囲に含めていくべきとの方向性については、概ね共通認識が得られた」とされている。しかしここでは、以下のような問題が看過されている。

1、合法とは言い切れない二次創作のダウンロードまで禁止することで、海賊版研究だけでなく、二次創作研究をも明確に阻害することになる。
2、現在のインターネット環境においては、研究あるいは新たな創作のために、記事・図版・文章の一部などを合法・違法を問わずメモとしてダウンロードし、クリッピングすることは日常的に行われており、こうした行為を「違法」とすることは、むしろ広範囲での研究・創作の萎縮を招く懸念が非常に大きい。
3、動画や音楽の違法アップロードと違い、静止画や文章が「違法」アップロードであるかどうかは判断が難しい。たとえば短文のSNS等で正確な出所が示されていない記事はすべて「違法」と判断され、ユーザーがダウンロードを控える可能性がある。
4、ダウンロードを違法化しても、「漫画村」のようなストリーミング方式の海賊版はまったく取り締まることができない。現在の動画や音楽のダウンロード違法化・刑事罰化のあと、逮捕者は出ておらず、もっぱら法律による「抑止力」のみが期待されている状態である。このような現状を鑑みると、今回の「中間まとめ」にあるように、静止画等のダウンロードを違法化することは、悪意ある侵犯者に対してはまったく効果がなく、逆に一般ユーザーの萎縮を招き、研究・創作を著しく阻害する最悪の結果となることが予想される。

これらの点が十分に検討されているとはいいがたいのは、中間まとめが、著作物の私的使用を一方的な便益の受容・消費活動と限定してとらえているためであり、著作物の享受や消費行為が、新たな著作物を創造する〈生産行為〉でもありうるという点が考慮されていない。

とくに日本のマンガ文化は、こうした〈生産行為〉を基礎とすることで、世界的な発展を遂げて来た。著作権の保護されるべき最終的な目的が「文化の発展」にある以上、この著作物の受容・消費過程における生産的・発展的側面が失われるようなことがあってはならない。よって、ダウンロード違法化の対象範囲の拡大それ自体に反対する。

  2019年1月23日
                             
                         日本マンガ学会理事
                             竹宮惠子(会長)
                             猪俣紀子
                             岩下朋世
                             呉智英
                             ロナルド・スチュワート
                             西原麻里
                             秦美香子
                             藤本由香里
                             堀あきこ
                             山中千恵

カテゴリー: 日本マンガ学会の動き