カトゥーン部会2021年度第1回研究会


2021年度第1回研究会報告

1日時:2022年3月19日(土) 13:00~15:00

2場所:Zoomによる開催

3報告者 孫 旻喬さん(北京第二外国語大学)
論題:「日本の大衆文化における『ロボット』の表象について
――戦前・戦時中を中心に――」

ご報告の内容は、⑴博士論文の概要の一部 ⑵中国における漫画・アニメ事情であった。

博士論文については以下のような報告がなされた。

「ロボット」と呼ばれる実物及びイメージが日本の大衆文化のなかでどのように変化してきたかを考察することが大枠の目的であった。この報告では、1920年代から40年代初頭の日本を対象とし、その時代の「ロボット」表象とアヴァンギャルド芸術との関係、加えて1930年代に入っては、科学空想小説、挿絵、児童漫画における「ロボット」像の変容について論じられた。中心となる分析枠は「身体」であり、創作者の目的によって生物・非生物(機械)的な身体を持つことから、「ロボット」表象の身体性を通じて、作り手の視点およびそれに影響を受けたとされる社会的・文化的背景を窺い知ることができる(とみられる)。日本における「ロボット」の受容は、

「人造人間」と称される人間の能力の拡張された「身体」を有するという認識と、特定機能の特化による人間の道具としての「機械」的身体を有するという認識が前後して行われた。従来の芸術の持つ伝統を否定する武器として、機械的な身体性を賛美したアヴァンギャルド芸術は、日本では1920年代以降のモダニズム、新興美術運動の「機械芸術」論に継承され、機械的存在がブルジョワ資本主義批判とあるべき人間像のモデルとみなされた。

このような状況を踏まえて、戦前・戦中の漫画や挿絵にみられる「ロボット」表象は如何なものであったかを報告者は語る。

「ロボット」に関する西欧・日本の文化的受容の一例として、田河水泡の漫画を取り上げる。かれの作品では、アヴァンギャルド芸術が推奨した機械的身体に加えて、20年代初期に「ロボット」に求められた人間的身体の拡張といった側面を描いていたとする。30年代には、後者のような人間性は「非科学的」なものとされ、「ロボット」の「科学的な」機械性が求められるようになった。日本軍の大陸進出が活発化するにつれて、この「科学性」が軍事と接合されるようになり、「ロボット」にも武器としてのイメージが付与されるようになった、としている。

中国における漫画・アニメ研究では、所属先の大学の紹介に次いで、アニメ研究と漫画研究の中国での位置づけが報告された。アニメ研究は、映像学の下位範疇に置かれ、表現技法、歴史、国際比較を通じた中国アニメ研究等が主要研究領域とされている。アニメとマンガ両方が含まれるコンテンツ産業や作品が語られることが多く、分節化が十分でない。マンガ研究は、アニメ研究に比べ量的に少なく、日本文化・日本文学研究の一環とみなされることが多い。その中でも、少年マンガ、青年マンガ、新聞マンガ、中国古典の二次創作ついて論じられている研究がみられる。日本をはじめとする海外マンガの受容については、漫画研究では大塚英志、夏目房之介などの著作が翻訳されている。また受容媒体も、こと北京においては、昨今のメディアの多様化を反映している。

参加者からは、①戦前における「ロボット」のタイプ(自立と非自立(操縦))、②「空想科学」や「科学」知識への戦争・武器イメージの侵入過程を語る際の社会状況を変数とした説明の必要性、③実物としての「ロボット」について、からくりからロボットへの推移、玩具としての「ロボット」、④「科学」的知識が子供・青年文化に受容されるときの科学者イメージの推移、などが論点として抽出された。

 (文責 茨木正治)

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