カトゥーン部会2005年度第4回研究会
Ⅰ日時
2005年8月27日(土)13:00-17:00
Ⅱ場所
関西大学尚文館4階408号室
Ⅲ報告者
雑賀忠宏 氏(神戸大学大学院)
Ⅳ報告題目
「マンガ文化」生産における媒介主体の役割についてーーマンガ編集者の活動を中心としてーー
Ⅴ報告概要
本報告では、マンガというメディアに様々な立場から関わる人々のうち、生産の空間と消費の空間の間に挿入され、マンガ作者と読者を媒介している人々・組織 (本報告では副田義也の用語に基づき「媒介主体」と呼称した)に議論の焦点を合わせ、マンガという文化/産業全体におけるその機能について考察した。
まず、先行するマンガ研究において、こうした人々がいかに位置づけられてきたかについて確認した。そのために、60年代から70年代にかけてのいわゆる 「マンガ・ブーム(劇画ブーム)」について、肯定的・否定的評価の違いこそあれ、ブームにおけるマンガ表現の変化の方向性を定めた要因としての媒介主体の 活動に触れた石子順造(1975=1994)および副田義也(1975)のメディア論的議論、マンガ固有の表現構造を軸として成立する「表現者―作品―読 者」という関係性に照準し、媒介主体を戦略的に理論的残余範疇として扱うマンガ表現論(夏目 2002など)、貸本=単行本市場と雑誌市場という二重構造 の一元化を背景とした制作環境の変化(組織化・分業化)について論じた中野晴行(2004)によるマンガ産業論、以上三つの議論について簡潔にレビューを 行なった。
続いて、本報告における理論的パースペクティブとして文化生産論的アプローチを挙げ、この理論的パースペクティブに基づいたPaul M. Hirsch (1972)の文化産業システムモデルを初めとする文化産業研究の知見について、とりわけ媒介主体としての職業人(例えばマンガ編集者)の役割と機能(伝 達・選別・仲介)に留意しつつ紹介した。
最後に、文化生産論の概念装置に依拠しつつ、媒介主体としてのマンガ編集者の位置づけについて、Sharon Kinsella (2000)の青年マンガ論に触れつつ考察を行なった。Kinsellaは90年代における青年マンガ生産の空間における編集者とマンガ家の役割と相互関 係の変化について述べている。生産における編集者の支配的役割を強調するKinsellaの議論は、中野の指摘するマンガ家の「第一次生産者」へという変 化とも呼応するように一見思われるが、従来の文化産業論が指摘してきた媒介主体の多面的機能を階級性や政治性といった要因に過度に単純化してしまっている 傾向があるのではないかと本報告では指摘した。そして、階級性・政治性等に還元しきれない媒介主体としての編集者の役割の多面性は、マンガ表現そのものを めぐる彼等の感覚的・感性的な言明からも捉えることができるのではないかとして報告を終えた。
以上のような報告をもとにして、戦前と戦後のマンガ生産の環境の差異あるいは連続性を分析の上でいかに踏まえるのかという点や、基礎データ収集作業の重要 性、マーケティングや新人育成における媒介主体の役割について、また、メディアミックス展開の一環としてのマンガ作品における制作環境の特色、韓国マンガ 界や新聞マンガ業界における事例との差異、マンガ生産の現場において共有・志向される表現コードとその消費空間における受容可能性の問題、モデルの妥当性 等の方法論上の諸問題といった、様々な論点が提出され、それらをめぐり議論が行なわれた。