カトゥーン部会2005年度第6回研究会


1.日時 2005年11月13日(土) 14時~17時
2.場所 神奈川近代文学館
3.報告者 押山 美知子(専修大学大学院生)
4.報告題目
少女マンガに見るジェンダー表象-〈男装の少女〉の造形とアイデンティティ
5.報告概要
報告は報告者の博士論文『少女マンガジェンダー表象論-〈男装の少女〉の造形とアイデンティティ-』の内容に沿ったものとなり、〈男装の少女〉というヒロ イン造形を切り口に、日本の少女マンガにおけるジェンダー表象の変遷について年代ごとの主要な〈男装の少女〉ものを取り上げ、個々の作品論、とりわけ〈男 装の少女〉というヒロイン像を構成するジェンダー・コードの分析を中心に報告が行われた。
まず始めに〈男装の少女〉というヒロイン像の原初形態である手塚治虫『リボンの騎士』のヒロイン・サファイヤによって示される〈性別越境〉及び性差を、 「少女クラブ」版、続編、リメイク版の三作品全ての構造と変化について考察が行われ、『リボンの騎士』は、ヒロインの〈内面〉と身体性を女性の”本質”で あり、不変的で越境の不可能なものと位置付けることで、〈男装の少女〉の〈性別越境〉の不可能性を明示する作品であるとの見解が示された。このような〈男 装の少女〉の〈性別越境〉の描き方については、サファイヤの造形に影響を与えたとされる宝塚歌劇の「男役」の〈性別越境〉のあり方との共通性が指摘され た。
続けて、五〇年代後半から六〇年代に描かれた〈男装の少女〉もの数点を対象に、それらの作品に見られるジェンダー表象の傾向について述べられた。とりわ け、戦後少女小説との影響関係、及び五〇年代半ばに全国各地で巻き起こった「悪書追放運動」との関連に焦点が当てられ、〈男装の少女〉もの不作期と言える この年代への影響が指摘された。この年代における『リボンの騎士』とは異なる、新しいジェンダー表象の一例として〈男装の少女〉というモチーフをアクセン ト的に作中に取り入れている水野英子『銀の花びら』が取り上げられ、ヒロインの〈内面〉表象におけるジェンダー・コードの組み替えが試みられたことが指摘 された。このヒロインの〈内面〉性というものを女性マンガ家である水野英子が自らのうちに新たに模索していく方向性を打ち出したことが、七〇年代以降の 〈男装の少女〉もの隆盛期の現出に大きな影響を果たした点も述べられた。
更に、『リボンの騎士』のサファイヤと並び立つ〈男装の少女〉キャラクターの代名詞的存在である、池田理代子『ベルサイユのばら』のヒロイン・オスカルに よって提示された〈性別越境〉とそのジェンダー表象が分析され、男性性と女性性の表象記号を組み合わせる形で〈中性〉的な容姿造形を与えられたオスカル が、既存のジェンダー・カテゴリーの枠組に囚われない、自立した主体としてのヒロイン像として立ち現れたことが述べられた。〈男装の少女〉というヒロイン 像が、日本の少女マンガにおけるジェンダー表象の変容に大きな役割を果たしたこと、女性マンガ家が男性マンガ家の提示したものとは異なる少女像(=ヒロイ ン像)を自らの手で描き出すにあたり重要な指標として機能したことがまとめとして述べられた。報告後、出席者から〈性別越境〉や〈少女〉概念の定義に関す る疑問、個々の章の内容に見られるズレ等に関する質問が上がったが、発表時間が予定を大幅に超過したため、十分な議論に発展するまでに至らないまま閉会と なった。
(2005年11月19日)

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