カトゥーン部会2006年度第1回研究会
1日時:2006年4月22日(土)14:00~17:00
2場所:神奈川近代文学館(横浜市中区山手町110)
3報告者:清水勲氏(帝京平成大学)
4報告題目:カートゥーンとカリカチュアは違うのか
5報告内容
清水氏の報告の概要は以下のとおり。
「カートゥーンとカリカチュア」、「ナンセンス漫画とギャグ漫画」、「諷刺漫画と諷刺画」などにみられるように、現代の漫画に関する概念の混乱は著しい。 こうした概念の整理を「カートゥーンとカリカチュア」について、歴史的な視点から試みる。そこから、現代における「カリカチュア」の意義を考える。
18世紀フランスに登場した「カリカチュア」という言葉は、絵師・画家が生み出した重厚・細密な絵画世界を指し、「カートゥーン」は、19世紀イギリスに 其の名を冠した書物が登場している線画、壁画などの実物大の下絵を意味していたようである。新聞や雑誌というジャーナル(定期刊行物)の発達は、職業漫画 家を生みだした。そして、ジャーナルに登場した時局諷刺漫画を「カートゥーン」とよぶようになった。さらに、複製芸術の大量生産に伴い、表現が簡略化され た「カートゥーン」が「カリカチュア」よりも使われるようになった。「カリカチュア」が復活するのは、いわゆる「戦争の世紀」である20世紀の、2度の世 界大戦時であった。表現の制約が厳しくなる戦時においてこそ、その不満をエネルギーにした諷刺に基づく「カリカチュア」が求められたのではないか。
現代の「カリカチュア」を考えるにあたり、日本では江戸期からの連続性を表現技巧に着目して考察する必要性を説く。例えば、「二枚続」「三枚続」、「写し絵」の影響などから、アニメーションの萌芽を見ることができる。
報告の後、参加者を含めた討論が行なわれた。まず、歴史的アプローチにおける、観察者の視点の位置づけの難しさが確認された。ついで、江戸期の戯画と現代 との表現上の連続性について、コマの動きと時間性、「三枚続」の意味、アイコンやシンボルの解釈コードの「有効期限」と近代の問題などが論点となった。さ らに、現代の「カートゥーン」や「カリカチュア」を実際に描く「現場」からの発言を加えて、時代性(時代の雰囲気)を記録する漫画(特に一こま漫画)の意 義を見出すことが示された。
(文章責任 茨木正治)