カトゥーン部会2010年度第1回研究会
- 日時 2010年4月10日(土)14:00~17:00
- 場所 早稲田奉仕園セミナーハウス中会議室102号室
- 報告者・論題
足立加勇 氏(学習院大学大学院)
「視点が担うメッセージ ――『ひぐらしのなく頃に』に見るノベルゲームの物語構成法」 - 報告・研究会概要
近年、コンピューターゲームは物語を語る新しいメディアとして注目されるようになった。しかし、ゲームは他メディアにはない、システム、あるいはルールと 呼ばれる構造を持っており、それが分析を困難なものとしている。物語内容に注目する論考では、システム、ルールといったものが捨象され、あるいは言及が最 小限度にとどめられることによって、論が成立することが多い。
本発表は、ノベルゲーム『ひぐらしのなく頃に』を、ゲームとしての構造と物語内容を関連づけることによって、この作品がいかにして物語を成立させ、その 「互いに信じ合い、手を差し伸べあおう」というメッセージに説得力を与えたかを分析する試みである。
『ひぐらしのなく頃に』は、ノベルゲーム特有の、プレイヤーと主人公は同一化した存在であるという前提に基づいた、主人公の絶対的な一人称によって連続殺 人事件を描く。しかし、その話法はゲームが進行するにつれて解体され、一人だけではなく、様々な登場人物の視点が重ね合わされることで殺人事件の謎は解明 される。様々な人々の視点を重ね合わせる手法は、手を差し伸べあうことの隠喩となり、物語構造の根本的な転換がメッセージに力を与える。その過程におい て、プレイヤーは物語を編集する者として積極的に物語に関わることになる。
発表後の討論では、おおまかに次の二点をめぐって議論が行われた。(1)プレイヤーと主人公の同一化とその乖離が起こるメカニズムはいかなるものであるか。視点や文章の人称との関係及び、それによって生じる画面構成、物語内容、主人公像のあり方について。
(2)ゲームの定義及びリテラシーはどのような形でユーザー間で共有されているのか。そして、『ひぐらしのなく頃に』のような、定義やリテラシーの共有を前提とした作品の流通が何を意味するのか。
カテゴリー: カトゥーン部会